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蒸気の基本
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蒸気に関する用語
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蒸気が関わる工学分野(以下、蒸気工学分野と記します。)においては飽和蒸気表の活用が欠かせません。初めに、その蒸気表に使用されている用語と、それらに関連する幾つかの基本的な用語について解説しておきます。
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圧力(Pressure)
単位面積当たりに働く力を圧力と言います。
圧力の SI 単位はパスカル(Pa)で、1m2 当たりに加わる力が1ニュートンのときに 1Pa と定義されます{1Pa=(1N/m2)}。パスカルはこのような小さな値なので、蒸気工学分野では、1MPa 又は 1kPa の方がよく使われます(本書では、以後 MPa で表記しています)。また従来より kgf/cm2 の単位もよく使用されていますが、MPaとの関係は、1MPa =10.197(kgf/cm2)となります。
圧力には、その基準(0MPa)を完全真空に置く絶対圧力(Absolute pressure)と大気圧に置くゲージ圧力(Gauge pressure)があります。絶対圧力とゲージ圧力の関係は次式の通りです。
(ゲージ圧力)=(絶対圧力)-(大気圧)
大気圧では、ゲージ圧力は 0MPa、絶対圧力は 0.10133MPa となり、従って 2 つの圧力間には約 0.1MPa の差があります。この 2 つの圧力を区別するため、絶対圧力には‘a’、ゲージ圧力には‘g’を圧力単位の後に付することがあります。
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比容積(Specific volume)、比重量(Specific weight)
1kg の蒸気が占める容積を比容積(又は比体積)といい、m3/kg の単位で表します。比容積の値は、基本的に圧力と温度によって決まります。圧力や温度が変化すると比容積も変化しますが、その度合いは、液体の水に比べて蒸気の方がずっと大きくなります。
比重量(又は密度)は比容積の逆数で、単位はkg/ m3 です。
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飽和温度(Saturated temperature)
水に熱を与え続けると温度が上昇していきますが、ある温度に達すると、その後は温度が上昇せず、加えられた熱は全て水の蒸発に使われて同じ温度の蒸気が生成されていきます。この時の温度を飽和温度と呼んでいます。飽和温度は、圧力と一意的な関係にあり、圧力が高い(低い)ほど飽和温度も高く(低く)なります。
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比エンタルピー(Specific enthalpy)
この言葉は、蒸気或いは水の単位質量当り(1kg)のエネルギー量を表す言葉として熱力学分野でよく使用されていますが、とりわけ蒸気工学分野では、次の熱量を表す言葉として用いられることが多く、蒸気表にもこれらの値が記載されています。
①水の比エンタルピー(h’)
水 1kg を 0℃から現在の温度まで上げるのに必要な熱量を意味するもので、顕熱と同義語です。
0℃という馴染みのある温度におけるエンタルピーを 0(零)としているので、感覚的に把握し易い相対的熱量を表していると言えます。
大気圧下では、水は 100℃で沸騰しますが、1kg の水を 0℃から 100℃まで上昇させるには 419kJ の熱量が必要です。水の比熱 4.19kJ/kg℃は、この数値から計算されたものです。
②蒸発の比エンタルピー(r)
沸騰温度にある水 1kg を蒸気に変えるのに必要な熱量です。水/蒸気混合状態での温度は変化せず、全てのエネルギーは、水を蒸気に変えるのに使用されます。蒸発熱や気化熱と同義語です。
③飽和蒸気の比エンタルピー(h”)
これは、飽和蒸気が保持する全エネルギーで、次式のように、単純に水のエンタルピーと蒸発のエンタルピーの和で表せます。
h”=r+h’
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顕熱(Sensible heat)
物質の温度を変化させる熱を顕熱と呼んでいます。顕熱を吸収すれば温度が上がり、放出すれば温度が下がります。蒸気工学分野では、多くの場合、水(液体)が保有する熱量を指します。
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潜熱(Latent heat)
物質の相を変化させる熱を潜熱と呼んでいます。潜熱の出入りによって、温度は変化しません。潜熱は別の言葉で、融解熱、蒸発熱(気化熱)、液化熱、凝固熱等の呼び方がありますが、蒸気工学分野では、多くの場合、蒸発のエンタルピーを指します。
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比熱(Specific heat)
同じ熱量を加えても温度の上がり方は物質によって異なります。ある物質 1kgの温度を 1℃上げるのに必要な熱量を,その物質の比熱といい、kJ/kg℃の単位で表示します。比熱には、物質の体積を一定に保つ場合の値(定積比熱)と、圧力を一定に保つ場合の値(定圧比熱)がありますが、一般に両者の違いが問題になるのは、その物質が気体の場合に限られます。従って、例えば液体である水の比熱は、‘①水のエンタルピー’で述べたように、単に 4.19kJ/kg℃と表します。